住宅メンテナンス診断士講習会-ごあいさつ

21世紀、新世紀ももはや相当年数が経過し、国民生活の各分野で環境は大きなテーマと認識されるようになり、さまざまな取り組みが当たり前となりました。

 

人口が減少に向かい、高齢化が一層進行する今日、資源の枯渇、環境の破壊、廃棄物の累積といった、負の遺産を未来世代に残さない居住環境とライフスタイルを築いていくという我々の責務は、ますます重要なものになっています。

 

これまで長く続いてきたフロー主義から、有効なストックの形成とその持続的な利用というストック中心主義へと、われわれの生活と住まいの転換が始まっています。歴史遺産のみならず、伝統的な民家・町家、町並みの保存と再生が、私たちの生活を豊かなものにすることが広く認められるようになりました。増加する空き家の利活用や適切な廃棄も大きな課題となっています。

 

再生可能資源を使う木造住宅も、少なくとも木材になる木が育つ50年間以上に長寿命化することが求められています。廃棄物の量を減らしリサイクルのしくみも構築していく必要があります。2009年6月長期優良住宅の普及促進法、2010年4月の既存住宅暇疵担保保険のスタートなど、ストックの充実に向けた動きが次々と発表され、2018年4月には改正宅建業法、安心R住宅制度がスタートするなど、ストックを活用し住み継ぐ住宅市場形成が強く求められるようになりました。

 

大量生産・大量廃棄の時代には「メンテナンスフリー」が目指されたこともありましたが、今や「耐久性が高く質も高い住宅ストックを適切に維持管理する」ことは、環境問題の面からだけでなく、住まい手が愛着ある生活環境を築き、住文化を育てていくためにも重要であることが認められるようになっています。

 

ところが、新築住宅中心の供給を続けてきた現在の住宅生産は、住まい手と職人の手によって維持管理されてきた伝統的なメンテナンスの仕組みを失っています。また、新しい住宅設備機器や部材部品の使用と住宅性能の向上が、結露などの新しい維持管理の課題と技術を必要とするようになっています。阪神淡路大震災をはじめとする大震災や近年相次ぐ災害による住宅被害は、構造体の適切な維持管理の必要と同時に、地盤と基礎の健全性の点検と対策の重要性を改めて明らかにしたところです。

 

このような住まい手の安全・安心を実現する住宅の維持管理は、住宅産業界の新たな重要課題となっています。住宅産業の管理・営業等技術者には、従来にも増して、住宅点検と維持管理に関わる技術・ノウハウの修得が必要となっています。

 

一般社団法人住宅長期支援センターは、NPO法人住宅長期保証支援センターが活動趣旨に基づいて2003年より実施してきた、住宅の長期にわたる維持管理と活用、住宅履歴情報(いえかるて)の蓄積と活用、それらをサポートする住宅の点検・メンテナンス診断の人材「住宅メンテナンス診断士」育成のための講習活動を2016年4月に引き継ぎました。

 

「住宅メンテナンス診断士講習会」は、「メンテナンス診断士の役割と診断業務」の枠組みを示すとともに、「木部を適正な乾燥状態に置くこと」を住宅の維持管理の基本軸として、木材の腐朽と虫害、屋根・外壁からの漏水を中心課題として取り上げています。また、目視不具合箇所事例とその原因・補修といったわかりやすい診断ポイントを示しています。

併せて、住宅所有者への情報提供に役立つ住宅履歴情報:いえかるての重要性、維持管理に必須の修繕積立金制度の活用、既存住宅流通市場における住宅メンテナンス診断士の役割や国の動きを紹介しています。

 

当講習会のテキストは、現場経験に基づいてまとめたものであり、住宅メンテナンス診断士の基礎知識として、また実践的なマニュアルとして活用していただければ幸いです。

 

一般社団法人住宅長期支援センター

理事長 東樋口 護